映画やアニメのアテレコとは何かを徹底解説
映画やアニメを観ていると、「アテレコ」という言葉を耳にすることがあります。バラエティ番組で芸能人が動物の映像にセリフを当てている場面を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、映像制作の現場では、アテレコはもっと専門的で奥深い技術として位置づけられています。
個人的に映像制作に関わってきた経験から言えば、アテレコとアフレコの違いを正確に理解している方は、業界関係者でも意外と少ないのが実情です。
この記事では、アテレコの正確な意味から、アフレコとの違い、そして映画・アニメの現場でどのように活用されているかまで、わかりやすく解説していきます。
この記事で学べること
- アテレコは「当てレコーディング」の略で、既存映像に声を合わせる技術のこと
- アフレコとアテレコは似て非なるもので、対象となる映像の種類が異なる
- 洋画の吹き替えや海外ドラマの日本語版制作はすべてアテレコに該当する
- バラエティ番組の「アテレコ企画」と映像制作のアテレコは技術的に別物
- 声優業界ではアテレコのスキルが専門的に求められている
アテレコの基本的な意味と語源
アテレコとは、「当てレコーディング」を略した業界用語です。
すでに完成している映像に対して、後から声やセリフを録音する作業のことを指します。ポイントは「すでに完成している映像」という部分です。つまり、自分が演じていない映像、あるいは他の誰かが作った映像に対して、声を「当てる」という意味が込められています。
もっとシンプルに言えば、画面に映っている人物や動物、キャラクターの口の動きやタイミングに合わせて、別の人が声を吹き込む作業です。
アテレコが使われる代表的な場面
アテレコが活用される場面は、映像制作の世界で非常に幅広く存在しています。
最も身近な例は、洋画の日本語吹き替えです。ハリウッド映画の俳優が英語で演じている映像に対して、日本の声優が日本語のセリフを当てていきます。この作業はまさにアテレコの典型例といえます。
海外ドラマの日本語版制作も同様です。韓国ドラマや中国ドラマの日本語吹き替え版は、すべてアテレコによって制作されています。
さらに、バラエティ番組でもアテレコは頻繁に登場します。動物の映像に面白いセリフを当てたり、街頭インタビューの映像にナレーションを加えたりする演出は、広い意味でのアテレコに含まれます。
アテレコとアフレコの違いを正確に理解する

アテレコとアフレコは、映像制作の現場でも混同されやすい用語です。
しかし、この2つには明確な違いがあります。アフレコは「アフターレコーディング」の略で、自分自身が出演した映像に後から声を入れる作業を指します。一方、アテレコは自分以外の誰かが演じた映像に声を当てる作業です。
この違いは、一見すると些細に思えるかもしれません。
ですが、実際の制作現場では、求められる技術がまったく異なります。
アフレコの具体例
アフレコの最もわかりやすい例は、日本のアニメ制作です。声優がアニメーションのキャラクターに声を入れる作業は、厳密にはアフレコに分類されます。なぜなら、アニメのキャラクターはその声優が「演じる」ために作られた存在であり、声優自身の演技として完成するものだからです。
また、実写映画やドラマでも、撮影現場の音声状態が悪い場合に、俳優本人がスタジオで自分のセリフを録り直すことがあります。これもアフレコです。
アテレコの具体例
一方、アテレコの代表例は先述の洋画吹き替えです。
トム・クルーズが演じた映像に、日本の声優が日本語のセリフを当てる。この場合、声優はトム・クルーズ本人ではありませんから、「他人の演技に声を当てる」というアテレコの定義にぴったり当てはまります。
アテレコ
- 「当てレコーディング」の略
- 他人が演じた映像に声を当てる
- 洋画吹き替えが代表例
- リップシンク技術が重要
アフレコ
- 「アフターレコーディング」の略
- 自分が演じた映像に後から声を入れる
- アニメの声優収録が代表例
- キャラクターとの一体感が重要
現場では区別が曖昧になることも
ただし、正直に言えば、現場ではこの区別が厳密に使い分けられていない場面も少なくありません。
アニメの声優収録を「アテレコ」と呼ぶ制作者もいれば、洋画吹き替えを「アフレコ」と表現するスタッフもいます。業界全体として、両者を広い意味で「映像に後から声を入れる作業」として捉える傾向があるのも事実です。
とはいえ、厳密な定義を理解しておくことは、映像制作を学ぶうえで確実にプラスになります。
アテレコに求められる専門的な技術

アテレコは、ただマイクに向かってセリフを読めばいいという単純な作業ではありません。
特に洋画の吹き替えでは、高度な専門技術が求められます。
リップシンクの技術
アテレコで最も重要とされるのが、リップシンク(口パク合わせ)の技術です。画面に映っている俳優の口の動きに、日本語のセリフのタイミングをぴったり合わせなければなりません。
英語と日本語では、そもそも口の動き方が異なります。英語では唇を大きく動かす発音が多いのに対し、日本語は比較的口の動きが小さい言語です。この違いを吸収しながら、自然に聞こえるように演技するのは、想像以上に難しい技術です。
感情表現の「翻訳」
言葉だけでなく、感情の表現方法も言語によって異なります。
英語圏の俳優が表現する怒りや悲しみのニュアンスを、日本語の声の演技でどう再現するか。これは単なる翻訳の問題ではなく、文化的な感情表現の差を埋める作業でもあります。
経験豊富な吹き替え声優は、原語の演技を尊重しつつも、日本の視聴者が自然に感情移入できるよう、微妙な調整を加えています。この「感情の翻訳力」こそが、アテレコの真髄といえるかもしれません。
ブレスコントロールと間の取り方
息継ぎのタイミングも重要な技術要素です。
元の俳優がセリフを言い終わるタイミングと、日本語版のセリフが終わるタイミングを一致させるために、息の使い方を細かくコントロールする必要があります。一文の長さが原語と日本語で異なる場合、声優は息継ぎの位置を工夫して、全体の尺を合わせていきます。
アテレコに必要な主要スキル
映画におけるアテレコの歴史と変遷

日本における洋画のアテレコの歴史は、テレビ放送の黎明期にまでさかのぼります。
1956年にテレビで洋画の日本語吹き替え版が放送されたのが、日本のアテレコ文化の始まりとされています。当時は字幕を読むのが難しいテレビの小さな画面で洋画を楽しむために、吹き替えという手法が採用されました。
テレビ黄金期のアテレコ文化
1960年代から1970年代にかけて、テレビの洋画劇場が全盛期を迎えます。
「日曜洋画劇場」「金曜ロードショー」といった番組枠で、多くの洋画が吹き替え版で放送されました。この時代に活躍した声優たちは、特定の海外俳優の「専属声優」として認知されるようになり、アテレコという技術が一つの芸術として確立されていきました。
たとえば、ある海外俳優の声といえばこの声優、という組み合わせが視聴者の間で定着し、吹き替え版ならではの魅力が生まれました。
現代のアテレコ事情
現在では、Netflixなどの配信プラットフォームの普及により、アテレコの需要はさらに拡大しています。
韓国ドラマ、中国ドラマ、トルコドラマなど、英語圏以外の作品の日本語吹き替え需要も増加しており、声優に求められるアテレコの技術も多様化しています。また、配信プラットフォームでは字幕版と吹き替え版の両方が提供されることが一般的となり、視聴者が自由に選択できる環境が整ってきました。
アニメ制作におけるアテレコの位置づけ
アニメ制作の文脈では、アテレコという言葉の使い方に少し注意が必要です。
先ほど説明したように、厳密にはアニメの声優収録はアフレコに分類されます。しかし、アニメ制作においても「アテレコ」と呼ばれる作業が存在するケースがあります。
海外アニメの日本語吹き替え
ディズニーやピクサーの作品、あるいは海外のアニメーション作品に日本語の声を当てる作業は、正真正銘のアテレコです。
海外で制作されたアニメーションに対して、日本の声優が日本語版のセリフを録音するわけですから、「他人が作った映像に声を当てる」というアテレコの定義に完全に合致します。
プレスコとの違い
アテレコやアフレコとは逆のアプローチとして、「プレスコ」という手法もあります。
プレスコは「プレスコアリング」の略で、映像を作る前に先に声を録音し、その音声に合わせてアニメーションを制作する方法です。ディズニーやピクサーの作品では、このプレスコ方式が主流となっています。
日本のアニメでは伝統的にアフレコ方式が主流ですが、近年ではプレスコを採用する作品も増えてきています。VFXを多用する映像作品では、映像と音声の制作順序が柔軟に変わることも珍しくありません。
バラエティ番組のアテレコ企画と映像制作のアテレコの違い
テレビのバラエティ番組で人気の「アテレコ企画」と、映像制作現場のアテレコは、同じ言葉を使っていても、求められるものがかなり異なります。
バラエティ番組のアテレコ
バラエティ番組のアテレコ企画では、面白さやエンターテインメント性が最優先されます。動物の映像に人間のセリフを当てたり、無声の映像に即興でセリフを付けたりする企画は、アドリブ力やユーモアのセンスが問われます。
リップシンクの正確さよりも、いかに笑いを取れるか、いかに視聴者を楽しませるかが重要です。
映像制作のアテレコ
一方、映画やドラマの吹き替えにおけるアテレコは、原作への敬意と技術的な正確性が求められます。
原語の演技のニュアンスを損なわず、かつ日本語として自然に聞こえるように仕上げる。この繊細なバランス感覚が、プロのアテレコ声優に求められる資質です。シナリオの理解力も、質の高いアテレコには欠かせない要素となっています。
アテレコの収録現場はどのように進むのか
実際のアテレコ収録がどのように行われているのか、その流れを紹介します。
台本の準備と読み合わせ
翻訳された台本を事前に読み込み、キャラクターの理解を深めます。原語版の映像も確認します。
テスト録音とタイミング確認
映像を流しながらセリフのタイミングを確認し、リップシンクの調整を行います。
本番収録とリテイク
ディレクターの指示のもと、シーンごとに収録を進めます。納得のいく演技になるまでリテイクを重ねます。
洋画の吹き替え収録では、通常、主要キャストが一堂に会して収録を行います。これは、キャラクター同士の掛け合いの自然さを確保するためです。声優同士がリアルタイムで相手の演技を聞きながら録音することで、会話のリズムや感情の流れが自然になります。
ただし、近年ではスケジュールの都合や、感染症対策の影響で、個別収録(バラ録り)が増えている傾向もあります。
アテレコに関連する映像制作用語
アテレコを理解するうえで、関連する専門用語も押さえておくと、映像制作への理解がさらに深まります。
ダビングは、複数の音声トラックを一つにまとめる作業のことです。アテレコで録音した声優の音声と、BGM、効果音などを合わせて最終的な音声を完成させます。
MA(マルチオーディオ)は、映像に対する音声の最終調整作業です。アテレコの音声のボリュームバランスや音質を調整し、映像との一体感を作り出します。
ガヤは、群衆のざわめきや背景の声を録音する作業です。洋画の吹き替えでは、メインキャストのセリフだけでなく、背景で聞こえる群衆の声もアテレコで日本語に置き換えることがあります。
ロケハンや香盤表といった撮影準備の段階から、どのシーンでアテレコが必要になるかを計画しておくことも、効率的な制作には欠かせません。
これからのアテレコの展望
AI技術の進歩により、映像制作の世界も大きく変わりつつあります。
AI音声合成技術の発展により、将来的にはアテレコの一部がAIによって代替される可能性も議論されています。しかし、現時点では、人間の声優が持つ感情表現の繊細さや、キャラクターへの深い理解に基づく演技は、AIでは再現が難しいとされています。
むしろ、配信プラットフォームの世界的な拡大により、多言語吹き替えの需要は増加傾向にあり、アテレコの技術を持つ声優の活躍の場は広がっています。
日本のアニメが世界中で人気を集める中、日本語から他言語へのアテレコだけでなく、他言語から日本語へのアテレコの需要も、今後ますます増えていくことが予想されます。
よくある質問
アテレコとアフレコは同じ意味ですか
厳密には異なります。アテレコは「当てレコーディング」の略で、他人が演じた映像に声を当てる作業を指します。アフレコは「アフターレコーディング」の略で、自分自身が演じた映像に後から声を入れる作業です。ただし、現場では両者を区別せずに使うケースも多いのが実情です。
アニメの声優の仕事はアテレコとアフレコのどちらですか
日本のオリジナルアニメに声を当てる作業は、厳密にはアフレコに分類されます。声優がそのキャラクターを「演じる」ために起用されているためです。一方、海外アニメの日本語吹き替えはアテレコに該当します。
アテレコの仕事をするにはどうすればよいですか
声優養成所や専門学校で基礎的な発声や演技の訓練を受けることが一般的なルートです。特にアテレコに特化したスキルとして、リップシンク技術や原語の演技を理解する力が求められます。洋画吹き替えの場合は、英語をはじめとする外国語の基礎知識があると有利です。
バラエティ番組のアテレコと映画のアテレコは何が違いますか
バラエティ番組のアテレコは娯楽性やユーモアが重視され、アドリブ力が問われます。映画のアテレコは原作への忠実さと技術的な正確性が求められ、リップシンクや感情表現の精度が重要です。同じ「アテレコ」でも、求められるスキルセットはかなり異なります。
プレスコとアテレコの違いは何ですか
プレスコ(プレスコアリング)は映像制作の前に音声を先に録音する手法で、アテレコとは録音のタイミングが逆になります。プレスコでは声の演技に合わせて映像を作りますが、アテレコでは完成した映像に合わせて声を録音します。ディズニーやピクサーの作品ではプレスコが主流で、日本のアニメではアフレコが一般的です。

映画批評家歴12年。年間200本以上の映画を鑑賞し、国内外の映画祭にも精通。東京国際映画祭の公式レビュアーを3年間務めた経験を持つ。ハリウッド大作からミニシアター系まで幅広くカバーする映画ジャーナリスト。
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